とっておきインタビュー 第14回
2003.09


手を触れずして美しい音色を奏でる
画家・テルミン奏者
船田奇岑(きしん) さん

 
日本画家でありながら、音楽プロデューサーも務める船田奇岑さんは、中国地方では数少ないテルミンの奏者です。テルミンは、日本では2001年に公開された、テルミンの発明者レフ・テルミン博士(1896年〜1993年)の人生を描いたドキュメンタリー映画「テルミン」のヒットを機に注目をあびるようになりました。世界でも珍しいテルミンの仕組みや演奏方法、魅力などを船田さんに伺いました。


テルミンってどんな楽器ですか。
 テルミンは1920年、ロシアの天才物理学者にしてチェロの名手だったレフ・セルゲイヴィッチ・テルミン氏によって発明された世界最古の電子楽器です。楽器に直接触れることなく、空間にかざした手の動きによって演奏されます。この楽器が進化して、シンセサイザーが生まれました。
 外観は、箱型の本体の右側に棒状のアンテナが垂直に立ち、左側にU字型のアンテナが水平に付いています。鍵盤はなく、アンテナの周囲に微弱な電磁場が形成されていて、アンテナに手を近づけたり遠ざけたりして演奏し、外部につないだスピーカーから音が出ます。
手の動きがアンテナ周辺の電磁場に干渉し、耳に聴こえない高周波が変化し楽器内部の発信機に作用して、音の高低強弱が生じます。右手を垂直アンテナに近づけると音の高さが上昇し、左手を水平アンテナから遠ざけると音量が大きくなります。微妙な音の調整は指の動きで表現します。

なるほど。演奏は難しそうですね。
 普通の鍵盤楽器などは12音階で表現されますが、テルミンは音階の段階がなく12音階の間の音も表現できます。すなわち、音の高さを定める基準がないので、演奏者の耳と、所作だけが音の高さを定めるよりどころとなります。演奏者の動作、所作が敏感に音に変換されるため、演奏者の技量や体調、心理状態や性格なども音に表されるので大変です。
即興的な現代音楽に利用するには適していると思います。他の楽器と合わせることは、音が不安定なのでなかなか難しいですが、胡弓や民族音楽的なものとは比較的合わせやすいといえるでしょう。

テルミンの音色の魅力ってどんなところですか。
音は弦楽器に近く、宇宙的とでも言いましょうか、独特の浮遊感を帯びているのも魅力です。微妙に不安定な音は突飛で不思議なメロディを生み出しますが、同時にあたたかく、やさしい音色です。ある時は、そのユラユラした音色から不安や恐怖の心理描写の表現として、SF映画で宇宙人の登場シーンや円盤の飛ぶ音、さらに未来世界に響く音として数々の名場面に登場します。ヒッチコックの映画にもたくさん使われています。

画家でありながらテルミンをはじめられたきっかけは?
 母親も声楽を専門にしていましたし、たまたま音楽関係者がまわりに多くいたんです。20代の後半には自分でCM製作のスタジオもやっていました。テルミンはその頃から効果音で使われていたので知っていました。仕事にも使えそうなので、テルミンの中古を探していたのですが、音の出るものが見つからず、15年くらい前に米国の通信販売のキットを取り寄せて自作したのがテルミンを手にした最初です。その時には、不気味な音だというまわりの人たちの評価でした。今では方式やメーカーの違うものを4台持っています。共演や賛助の依頼があれば、年間4〜5回くらい演奏もしていますし、音楽プロデュースやCD製作のお手伝いもしています。



今後の活動の予定は?
 音楽に関してはヒーリング(癒し)系の自作のCDを制作したいと思っています。
 人生の中で体力、気力とも充実して仕事ができるのは55歳から60歳くらいまでと設定しています。それ以降の人生はおまけの人生だと思っています。仮に60歳までとすると、あと15年の人生をどう生きるかを決めて過ごしています。年間どのくらい作品を描くか、のちの研究のために作品のバリエーションをどのくらい残すかなどを考えて生きていきたいと思っています。


画家・船田奇岑(きしん)さん情報
●八千代の丘美術館「四季の里」I棟出展中
開館時間:10時〜17時 (入館16:30まで)
※休館日は火曜日(祝祭日の場合は翌日)、12/28〜1/4
所:広島県高田郡八千代町勝田新宮
問:四季の里総合センター
  TEL 0826(52)3050
●第6回 船田奇岑(きしん)日本画展

■2003.11/22(木)〜28(水)
 (最終日午後5時閉場)
■福屋八丁堀本店7階美術画廊
□船田さんの連絡先
TEL 082-223-5615

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