信仰―法話コーナー


法話

■錫杖の梅【2008年5月の法話】

 「今年の梅の花は例年になく綺麗ですね。」と弥山霊火堂を掃除していると、弥山登山を四千回超える初老の男性が声を掛けてこられました。しばらく 梅ノ木に咲いた鮮やかなピンク色の花を見ながら話していると、「やっぱりしっかりと手入れしたから、根が強くなったんやな。」と山頂を目指して歩みを進め られました。

 梅は、弘法大師が弥山開創時に持たれていた錫杖を建置かれていたのが根付き、一本の八重の紅梅の木となって現在に 至っている信仰的な伝承があります。又、山内に不吉なことがあれば咲かないと言われております。戦後荒れた弥山の諸堂を建て直された、第七十五世恵光大和 尚が遷化された年には全然咲かなかったと、本誌霊峰の第二十三号には書かれてあり『弥山七不思議』の一つでもあります。

 しかし、 梅の木も長年の風雨により腐ったり、枯れたり様々な原因で残された部分はわずかばかりになりました。そこで、パークボランティアの皆様の協力で平成十八年 より梅の保全活動を開始されました。平成十九年三月に広島県樹木医の先生に調査を依頼された所、「現在の状態を放置した場合、二年で枯死に至ると懸念され る。」と結果が出ました。

 確かに、土壌は悪く根や幹が腐っていたり、根から栄養を運ぶ部分が太さ五十センチあるにもかかわらず、 木の中は空洞化しており、表面のわずか五センチ位しかなく、大きな台風が来たら幹や枝が折れてしまいやすい手遅れ寸前でした。そんな中でも、樹木医の先生 の指導を受けながら、パークボランティアの皆様が根を強くする為に、腐った根を丁寧に取り除いたり土壌改良や枝のつぎ木など、数年かけ何回も弥山に登られ て手入れをしていただきました。

 確かに、梅の花は二月〜四月に咲きますが、それ以外は、落葉し、はげてもう二度と咲かないのでは と思わせます。しかし、木の根が生きているから、環境が整ったときには鮮やかな花を咲かせます。パークボランティアの皆様が一年間を通じて手入れをしてい ただいた結果、今年もより立派な梅の花を見ることが出来ました。

 弘法大師の言葉で『禿なる樹定んで禿なるに非ず』と言われており ます。禿という字はハゲとも読みますが、『人間は今はハゲた樹の様でも年月が、時が来れば、きっと花が咲く、いつまでも愚かではない』という意味です。私 の友人でいつでも、やんちゃな事ばかりしていた子がいました。数年前会った時には、スーツ姿がよく似合う人で、初めは誰かなと思う位でした。よくよく話し を聞くと、今では税理士をやっているとの事で、まさか彼が税理士になっているとは…。

 皆様のお近くにも彼の様に、久しぶりに会っ た時、こんな人になっているのかとびっくりされた事はないでしょうか。錫杖の梅の木は、手入れや環境によっては一年まてば咲くでしょう。でも、人間の生命 の根は十分な栄養を日々たくわえています。しかし、いつ花が咲くかは知りえません。彼は、税理士になるのに相当な年月がかかったそうです。大師が『定んで 禿になるのは非ず』と言っておられる様に、今悪くても日々正しい生活をしていれば、いつかは誰しもが花を咲かせる事が出来るのだと思います。

 若くても、老いていても皆様がいつか鮮やかな自分の花を咲かせてみましょう。南無大師遍照金剛

(小野湛海)



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